山間の村で出会う伝統の暮らし スイスVo.2

アルプスの景色を堪能しながらゆっくりと歩く。
かつての氷河の末端位置を示すサインがトレイル沿いに立つ。
氷河から溶け出した一滴の水が集まり、川となって流れてゆく。

エンガディン アルプス氷河ハイキング

 「モルテラッチ・チーズ工房」で手作りチーズを堪能した後、エンガディン地方の自然を満喫できるハイキングコースへと向かいました。ベル二ナ・アルプスの美しい景色を眺めながらのハイキングは、旅人に人気のアクティビティ。歩きやすく整備された道沿いには、わかりやすいハイキングコースの案内板が設置されています。
 初めて訪れた人でも安心して歩くことができるのが、スイスのハイキングコースの特徴です。今回は特別な装備なしに、1時間ほどで氷河に辿りつける初級のハイキングコースを選びました。

 スタート地点は標高1896メートルにあるレーティッシュ鉄道・ベルニナ線モルテラッチ駅。モルテラッチ川に沿って氷河の末端までゆるやかに繋ぐコースです。
 針葉樹の木立ちを眺めながら、ゆっくりとなだらかな道を進んでゆきます。雪が溶ける春から初夏にかけてはアルプスの高山植物が次々と芽吹き、可憐な花を咲かせる気持ちのよい季節。青、黄色、ピンクなどカラフルな小さな花々が、ところどころに寄り添うように咲いています。見つけるたびに歩みを止め、ひとつひとつ観賞しました。
 足元から視線を上げると、遠くに万年雪をかぶった山々が見えてきました。深い青空を背景にアルプスの風景が広がります。起伏のゆるやかな道が続いていましたが、だんだんと木々がまばらになり視界が広がってくると、森林限界の標高まで来ていることを実感します。

 もともとはこのあたりも氷河に覆われていたのだとハイキングガイドのルディさんが教えてくれました。温暖化による気温の上昇で、徐々に縮小し後退しているモルテラッチ氷河の末端の位置が、1878年から20年、30年間隔でトレイル沿いの看板に記されています。気候の変動によって氷河が消えた後には草木が生え、あたりの景色は年月とともに変化し続けているそうです。

 40分ほど歩くと、トレイル横の川の流れが勢いを増してきました。山肌全体が岩屑に覆われ、大きな岩がごろごろと転がる川原が広がっています。足元の岩に気をつけながら水の流れの源を辿っていくと、眼前に雄大なモルテラッチ氷河が横たわっていました。巨大な氷の塊はおよそ7キローメートル先まで覆い、ベル二ナの山々に繋がるペルス氷河へと合流しています。
 氷河に触れることができる距離まで近づくと、灰色の岩屑に混ざってキラキラと水色に光る氷の塊が見えました。遥か遠い時代の時間を閉じ込めた氷河は空気に触れて溶け出し、氷河の雫の一滴一滴がモルテラッチ川の流れとなって谷を下ってゆきます。しばらくの間、ポタポタと雫が落ちる音に耳を澄ませていると、氷河の向こうからひんやりと心地よい風が吹いてきました。
 大きく深呼吸を1回、2回、3回。フレッシュな空気を胸いっぱいに吸い込みました。スイスの手付かずの大自然に触れた時間でした。

岩屑の隙間から見えた水色に光る氷河。

アルプスの可憐な草花を鑑賞するのもハイキングの楽しみ。

 
ハイキングコース
モルテラッチ駅からモルテラッチ氷河
所要時間:往復約1時間半
オープン:年中
取材協力:
スイス政府観光局
www.myswitzerland.com/ja/home.html
スイス インターナショナル エアラインズ
www.swiss.com
スイストラベルシステム
www.raileurope.jp

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