宮古島の長閑な時間と台風

透明度の高さから「宮古ブルー」という言葉が生まれた。
来間島の小学校で、走り方の練習をする子どもたち。
 沖縄本島から南西に約290キロメートル。三角形の宮古島は、眩しいほど輝くブルーの海に珊瑚が群生する、ダイバーたちの憧れの島です。
 でも、今回の取材テーマは、南国の果実の恵み。太陽の力がつまったような宮古島のマンゴーを紹介したかったのです。そこで、収穫期の6月末から7月中旬のなかで、地元の人々が集う「マンゴーまつり」のタイミングに合わせて、宮古島を訪れようと計画をたてていました。
 ところが、出発3日前ぐらいから、ちょうどその時期に大型の台風が沖縄を通過する、というニュースが流れてきました。「どうしよう……台風が沖縄から本州に向かってくるとなると、この取材を決行するべきかどうか」と考えました。
 台風の進路予測図を見ても、ちょうど取材を予定している日程の後半にぴったりと重なってしまいます。現地の方に聞いたところ、もし台風が宮古島を直撃した場合、収穫前のマンゴーは木から落ちて出荷数が激減してしまうとのこと。そうなると、取材どころではないでしょう……。散々考えた末、台風が来る直前となる前半の日程だけでもマンゴーづくりの現場を取材しようと、予定どおり東京を出発することにしました。撮影をお願いしていた写真家の山崎さん、取材に協力をお願いしていた宮古島観光協会の廣田さんも、この決定にちょっと驚いたようでしたが、趣旨を伝えると納得してくれました。
 宮古島に到着するやいなや、『大福マンゴー園』をはじめ南国フルーツが食べられるお店などを取材しました。つくり手の方の愛情もぎゅっとつまったマンゴーは、まさにフルーツの王様。甘味に絶妙の酸味が効いています。マンゴーの美味しさを実感する一方で、台風対策の準備でお忙しいところにお邪魔している申し訳ない気持ちと、いま取材しなければ、という焦りがないまぜになっていました。
 そんななか、宮古島の風景と出会う人々のおかげで心がほぐれていくことを感じました。「宮古ブルー」と呼ばれるほどの透明度の高い海。果てしなく広がる地平線と風に揺れるさとうきび畑。小さな小学校で、輪になって腕を振り、走り方の練習をしている小学生たち。木陰で涼んでいるおばあと犬――。どれも、日常の長閑な時間でした。
そして、台風は当初予測されていたルートからちょっとはずれて、宮古島を通過していきました。海岸線沿いのホテルの客室の窓に広がっていたのは、白い荒波が立つグレーの海。室内にもゴーッと唸るような風音が1日中響いていました。
 幸いなことにこの年はマンゴーへの被害は多大にはならなかったと、後で聞いてほっとしました。静かな日常と、自然の厳しさが同居する、島の暮らしのことを考えた取材となりました。

photographs by Tomoyo Yamazaki

長閑な昼下がりに出会った、木陰で涼む犬。

「マンゴーまつり」で人気のかき氷。